チームラボの新たな挑戦作「チームラボリコネクト:アートとサウナ」が、東京、六本木の特設会場にて、期間限定(2021年3月~8月)で開催中です。
ここ数年、温浴業界ではかつてないほどにサウナ人気が高まっていますが、このタイミングで、まさかの「チームラボ」による「アートとサウナの融合」……。
サウナ界でも大いに話題となっている「チームラボリコネクト(以下リコネクト)」を取材してきました。
チームラボリコネクトとは
チームラボは、2001年から活動しているアート創造集団(アートコレクティブ)。その作品は、日本にとどまらず、世界各国に広がっています。
チームラボは東京で、豊洲に《水に入るミュージアム》「チームラボプラネッツ」、お台場に《地図のないミュージアム》「チームラボボーダレス」を常設で開館中。このほかに、期間限定の様々な内容のエキシビジョンがあり、全国各地で続々と新しい企画が作り上げられています。
国内にとどまらず、上海、マカオなどにも常設展がオープンし、その勢いはますます広がっています。
そんな中、「リコネクト」は東京、六本木の地に作られた、仮設テントのような建物で、アートとサウナをセットで体験する、期間限定の展覧会です。

「リコネクト」の中で、参加者は「本格的なサウナ」を体験します。サウナ体験によって感覚の研ぎ澄まされた状態でアートに触れることで、アートと一体になり、世界と再びつながる(リコネクトする)ことを目指すというもの。
……ちょっと説明が難しいので、まずはサウナによる感覚への影響について、お湯アナ視点で説明します。
サウナの効果
日本でサウナといえば、室内の温度を80℃~100℃にし、湿度を低くした「乾式」タイプや、室温40℃~60℃程度でスチームやミストなどにより高湿度の状態で浴する「湿式」タイプがありますが、一般的にサウナといえば「乾式」のことを指します。
湿度の低い高温の空間で体を温め、汗をかいたら外に出てクールダウン。サウナとクールダウンを何度か繰り返し、時には水風呂で体を冷やしたりすることで、「温冷交互浴」のような効果をもたらすことができます(※)。
※サウナ界では「温冷交代浴」と表現するようですが、温泉ソムリエ協会では「温冷交互浴」と表現します。
温冷交互浴により得られる一番の効果は、血行促進効果です。(ただし、高温浴、冷水浴の最中は血管が収縮するので、その後に休憩を入れて、収縮した血管が再び拡張することで、血行促進効果が得られると考えます。)

そのほかに、サウナと水風呂による温冷交互浴は交感神経を優位にすることから、感覚が研ぎ澄まされた状態を作り出すことができると考えます。
ちなみに、サウナ界で表現する「ととのう」とは、サウナと水風呂で温冷交互浴を繰り返すことで、交感神経を優位にし、その後に適度な休憩をはさむことで、副交感神経もあわせて優位な状態を作り出し、感覚が研ぎ澄まされている状態でありながら体がリラックスしている状態を作り出す、というニュアンスです。
急激な温度変化は体への負担が大きいので、温泉ソムリエ的には、サウナのあとは36℃の不感温浴、または26℃のシャワーをオススメしていて、全身での冷水浴は(温泉ソムリエとしては)すべての人にオススメするものではありません。体力のある人のみ、無理は禁物です。
サウナでととのい、アートを楽しむ
ということで、高温サウナと約25℃の冷水シャワー(素晴らしい温度設定!)による温冷交互浴で交感神経優位の状態を作り出し、そのとなりに外気温(室内ではありますが)の空間を作り、感覚が研ぎ澄まされた状態でアートを観賞する、これが「リコネクト」の体験です。

実際、チームラボの工藤岳さんによると、代表の猪子さんと工藤さんが、佐賀県の御船山楽園で毎年夏から秋にかけて開催している「チームラボかみさまがすまう森」に行ったときの体験から生まれた企画であるとのこと。
夜から始まる展示のため、少し早く到着したある日の二人が会場にあるサウナで時間を過ごし、時間になって作品を見たところ、いつもよりも美しく見えたそうです。光の調整の具合だと思って、現地スタッフに「今日の調整いいね」と声をかけたら、「変えてませんよ、いつもと同じです」という返事が。
でも二人には、明らかにいつもより完成度の高い作品に見える。よくよく考えた結果、サウナに入って自分たちの感覚が研ぎすまされた状態になっていたことが理由ではないかと気づいたそうです。

これを機に「アートを置く場所として最高級の空間を選ぶのではなく、観る人が最高級な状態になれば、アートともっと一体になれるのではないか」という「サウナとアート」の実験的な展示会の構想が始まった、というお話でした。
自分が最高級な状態になる
つまり、サウナによって自身の感覚を研ぎ澄まし、最高級の状態になって、その状態でアートを鑑賞することで、通常よりもアートがより一層美しく見えるという環境を作り出すこと、その体験の一連を提供するのが「リコネクト」なのです。
「リコネクト」には、本格的なサウナ体験ゾーンと、チームラボのアート観賞を楽しめるリラックスゾーンがあります。
参加者はまず、受付を済ませて水着やタオル、館内着を受け取り、ロッカールームで着替えます。
着替えたら水分補給。汗をかく前にコップ一杯の水を飲みましょう。
サウナ室は7タイプ。そのうち2つが女性専用ですが、基本的に男女一緒に体験できるようになっています。

カラーや香り、または温度などで、好みのサウナを選んで体を温めたら、冷水浴エリアへ。
ミストの冷水浴とシャワーで体の汗を洗い流します。その後、アート浴エリアへ。
アートを堪能したら、またサウナ室へ。これを繰り返しながら、制限時間内を自由に楽しむことができます。
アート浴エリア
「リコネクト」のアート浴エリアとして3つの作品があります。
そのうちのひとつ「空中浮揚/Levitation」は、広い空間に直径2~3mほどの大きな球体が浮遊しているという作品。

球体は、空中を上がったり下がったりしながら、絶えず中心を目指して動いています。中心で空中に浮遊する状態になると赤くなり、その状態が崩れて下降し始めると青くなり、床についてさまよっている間は紫に光っています。
赤く光る時は、球体にとって「ととのう」状態になったとき。そして、その状態は長続きしません。ととのったと思った赤い光は、すぐに不安定な状態を示す青色になり、そして自分の進む道を探して紫に光りながら、またある瞬間に、ぱっと赤く光ります。常に動きながら、「ととのう」状態を探して、球体が動いています。
この作品の解説を見ると、「エントロピー増大の法則」という言葉が出てきます。自然は秩序のある状態から無秩序の状態に向かうとされている宇宙の中で、「生命とはその方向に反している存在」であり、「超自然現象」である、という説明があります。
この球体は、自ら「ととのう」状態へと戻ろうとする。それは「エントロピー増大の法則」に反していて、それはまさに生命のようなもの、と思い至ったとき、この球体から一時も目を離すことができなくなりました。
アートとサウナの歴史
サウナ浴で感覚を研ぎ澄ませて、アートを鑑賞する。この、今までにない斬新なアイデアが、実は室町時代に行われていたらしい、ということを、この展覧会を通して知りました。
「リコネクト」の英語タイトルは「Art with 淋汗 Sauna」です。その昔、蒸し風呂に入ってアートを見るという茶の湯文化があり、「淋汗茶の湯」と呼ばれていたそうです。

サウナ(当時の蒸し風呂)が身体の感覚を研ぎ澄ますということを、室町時代の人たちも体感的に気づいていたということでしょう。サウナ文化は海外から入ってきたものと思っていましたが、実は日本にも古くから、サウナでアートを楽しむ文化があったのだと知ってとても驚きました。
そう、考えてみれば、銭湯に描かれるペンキ絵や、建物自体の豪奢な雰囲気、温泉旅館の庭園風の露天風呂などを思い起こせば、温浴とアートというのは昔から縁のある組み合わせだと気づかされます。
「増殖する無量の生命-A Whole Year per Year/Proliferating Immense Life – A Whole Year per Year」は、季節ごとに様々な違った花が咲き乱れる空間です。
茶の湯に限らず、日本では昔から、床の間や玄関などに季節の花を生けて、客人をもてなす心遣いがありました。季節の花でもてなすという意味では、デジタルで表現された現代の心粋を感じます。
チームラボの作品は、人の行動が影響して永遠に変化し続けるという性質があります。ただ見るだけで美しい自然を描いていますが、ずっと見ていて飽きないのは、同じ絵が出てくることがないということも理由のひとつでしょう。

チームラボリクネクトの詳細
「リコネクト」は、2021年8月31日(火)までの期間限定で開催中。アートとサウナの奥深さを体験してみませんか?
チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木
場所 東京都港区六本木5-10-25
時間 10:00~23:00
料金 平日4,800円/土日祝・特定日5,800円
※安全管理上、0-11歳の子どもは利用できません。
※12~17歳の方は、20歳以上の保護者の同伴が必要です。
WEB https://reconnect.teamlab.art/jp